ウイスキー好きの"今夜も飲む!"

ウイスキーとその蒸溜所を愛し、年間10回以上蒸溜所を訪問。ウイスキーの良さと蒸溜所見学の楽しさを皆様に知っていただきたいと思います。2019年、ウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル取得。

カテゴリ:ジャパニーズ > 長濱

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日本一小さな蒸溜所である長濱蒸溜所。ここではそのサイズ感ならではとも言えるイベントを開催している。それが「長濱蒸溜所 蒸溜体験ツアー」である。
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これは所謂ウイスキーファン向けのウイスキー製造体験会であり、1泊2日の日程でウイスキーの製造プロセスを実地体験できるプログラムとなっている。

ここまで聞くと、ニッカが余市・宮城峡各蒸溜所で開催している「マイウイスキーづくり」と差して変わらないように思えるが、実際は、こちらの「蒸溜体験ツアー」のほうがディープでマニアックだ。

どの辺がディープかというと、具体的には本当に製造作業を自分の手で行うというところだ。
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「え、ニッカも実際の作業を体験できるじゃん!」という意見が飛んできそうなところである。確かにニッカの開催するマイウイスキーづくりも製造作業の体験はある。しかしそれはあくまで製造工程の一部を切り取って、イベント用に行う「体験」であって、実際の業務と細部が異なっている。

一方、長濱の蒸溜体験は本当にウイスキー製造を体験できる。マッシュタンからドラフを掻き出して袋に詰め、スチル・冷却器を掃除してモロミを張り…と、もう殆ど労働と同じ状況だ。

2日にわたって汗をかきつつ、筋肉痛になりつつ作業を体験する。人によってはバイト代を請求したいと思うかもしれない。
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しかし、本当に製造現場の空気を知るためにはこれ以上の体験プログラムは無いだろう。なにせモルトの粉砕、ウォッシュバックへの酵母の投入、スチルへの火入れ、ローワインのアルコール度数測定、ニューポットのバレルエントリーに至るまで、本当に殆ど全ての工程を体験できるのだから。
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これは流石にニッカでも真似できない。この日本一小さな規模だからこそ、できることなのだ。

惜しむらくは、実際のウェアハウスを見ることができないという所だろうか。しかし、それすら霞むぐらいに、この蒸溜体験は楽しい。
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参加人数も最大6人に抑えられているため、暇を持て余すこともほぼない。また、質問も聞き放題だ。

また、ここはレストラン併設であるため、1日目の昼・夜、2日目の昼と、食事が提供される。特に1日目の夕食は懇親会を兼ねた宴会となっており、参加者同士またはスタッフの方々とビールやウイスキーを片手に談笑しながら豪華なメニューを楽しめる。
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スタッフの方々からは、ちょっとした裏話や立ち上げ当初の苦労話、こぼれ話も聞けたり…。

他にもお楽しみポイントはいっぱいあるのだが…、この先は実際に参加し、ご自身で体験していただきたいと思う。

応募は公式サイト「https://www.romanbeer.com/nagahama-distillery/tour/」より可能。参加費は宿泊費および2食+宴会、ニューポット(ハンドフィル!)やグラス等のプレゼントを含めて44000円(税込)となっている。
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値段としては決してリーズナブルではないが、得られるものは相当に大きい。そして楽しい。

ウイスキーファンを自称するならば、是非1度はご参加いただきたいと思う。

近畿圏のウィスキー蒸溜所といえば最も著名な山崎(大阪)、古参であるホワイトオーク(兵庫)が有名どころだが、滋賀県の最北部、長浜市にも大変ユニークな蒸溜所が存在している。それがここ、長濱蒸溜所だ。
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長濱蒸溜所は2016年の創業。元々ブルワリーとして稼働していた長濱浪漫ビールの建物内に設けられた新参のクラフトディスティラリー。そして国内屈指の小規模蒸留所である。

その小ささは蒸溜所自ら「国内最小」を謳う程で、企業傘下の大規模蒸溜所は比べるまでもなく、近年続々と創業している所謂クラフト蒸溜所の中に於いても明らかな規模の小ささだ。
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長濱浪漫ビールは工場直営飲食店、つまりクラフトブリュワリーにレストランが併設された複合施設である。そのビール醸造設備に隣接するようにしてウイスキー製造設備が設けられている。

所謂工房として使用されている棟は天井の高い2階建て構造(もしくは吹き抜けと一部ロフトのような構造)になっており、下階に糖化槽とポットスチル、上階に発酵槽が置かれている。また、表側からは目視できないが発酵槽と同じフロアにはモルト粉砕機も置かれている。
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製造設備はどれも非常にコンパクト。そしてコンパクトながらその独特の形状が印象的なポットスチルは、国内では唯一の導入となっているアランビック型(ポルトガル、ホヤ社)の1000リットルサイズのものである。

画像を見ていただいておわかりと思うが、スペース自体も非常にコンパクトに抑えられており、極めて省スペースである。決して広くはないスペースに醸造所と蒸溜所が同居し、レストランが併設され、さらに小さいながら直売ショップやバーカウンターも設けられているので、必然的に作業スペースが手狭になっており、場所によっては(特に糖化槽周辺などは)人と人がすれ違うことすら困難なこともある。
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勿論、コンピューターでのオペレーションも一部(発酵管理)を除いて行っておらず、手作業。さらに配管も最小限であり、各工程の材料の移動(糖化→発酵→蒸溜→樽詰め)は全てポンプを用いた手作業で行われる。当然各設備の清掃も手持ちのシャワーを使った手洗いで行う。

新古大小限らず国内の多くの蒸溜所である程度の工業化、オートメーション化が図られている中で(清掃は手洗いの場合も多いが)、これほど多くの工程を手作業に頼る蒸溜所は国内において他に無く、非常にレトロでトラディショナルな手法で製造していると言える。まさしく工業化される以前の作り方を実践している蒸溜所であり、それを間近で見学できる場所というのは非常に稀有であり貴重だ。
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まさにハンドクラフト、クラフトディスティラリーな長濱蒸溜所はそんな規模の小ささを武器に、ウイスキーに対する情熱と軽妙なフットワークで今日も様々なチャレンジを繰り返している。その成果が我々飲み手の元に届く日もそう遠くはないだろう。今後もますます目が離せない蒸溜所である。

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