ウイスキー好きの"今夜も飲む!"

ウイスキーとその蒸溜所を愛し、年間10回以上蒸溜所を訪問。ウイスキーの良さと蒸溜所見学の楽しさを皆様に知っていただきたいと思います。2019年、ウイスキー文化研究所認定ウイスキープロフェッショナル取得。

2019年10月

今や世界でも屈指の規模の酒類メーカーとなったサントリー。そんなサントリーが山崎蒸溜所に次ぐ第2蒸溜所としてオープンさせたのが、山梨県北杜市に位置する白州蒸溜所だ。
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白州蒸溜所があるのは山梨県北杜市。街や駅から遠く離れた森林の中に位置している。日本国内で山や海、はたまた都市部や工業地帯に立地する蒸溜所はあれど、深い森林の中に位置する蒸溜所は珍しい。
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白州蒸溜所が創業したのは1973年。後、1981年に同敷地内にもう1つ蒸溜所を建造し、最初の蒸溜所を「白州西」、新しい蒸溜所を「白州東」蒸溜所とした。その後、白州東蒸溜所が本格稼働するのと同時に白州西蒸溜所は事実上閉鎖。現在「白州蒸溜所」と呼ばれている施設は「東」蒸溜所のほうである。

尚、「西」の建物は取り壊されずそのまま保存され、現在はコンサートホールやセミナールームとして利用されているようだ。
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敷地内には所謂蒸溜所としてウイスキーの製造が行われる棟、樽の貯蔵庫、クーパレッジ、他ビジター用のショップ、レストラン、博物館など多くの施設・棟が林立している。製造設備の規模は同じくサントリーの山崎蒸溜所に匹敵する大きさで、やはり他社の蒸溜所とは一線を画す印象だ。さらに敷地内には多くの木々が立ち、野鳥の森「バードサンクチュアリ」として観光スポットの一つとしており、自然と融合したナチュラルなイメージが強調されている。

これだけ多くの施設があり、さらに合間合間に森林が広っていることからも解るように、白州蒸溜所は極めて広大な敷地に存在している。実際、見学で訪れるとエントランスからビジターセンター、ビジターセンターから製造棟、製造棟から貯蔵庫までの距離が大きく開いていることに気づく。製造棟から貯蔵庫に至ってはバスで移動するほどの距離があり、全行程徒歩で見学する山崎とは大きな違いである。
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先述の通り蒸溜所敷地内には木々が生い茂り、移動中にちょっとした森林浴が楽しめるし、四季によって変わる景色も非常に良い。都市に近く、非常に工業的なイメージの山崎蒸溜所と好対照な、まさに「森の蒸溜所」だ。


2019年10月29日、サントリーよりエッセンス・オブ・サントリーウイスキー 第3弾が発売された。
情報元:サントリー(https://www.suntory.co.jp/whisky/essence/

今回発売されたのは2種類。両方ともブレンデッドウイスキーとなっている。

・ エッセンス・オブ・サントリーウイスキー ブレンデッドジャパニーズウイスキー(クリーンタイプ)

公式サイトによると
〇 鏡板に杉材を使用した「杉樽」で6年以上熟成した白州モルト原酒
〇 白州のホワイトオークで熟成したモルト原酒
〇 知多のクリーンタイプのグレーン原酒
を使用しているとのこと。

・ エッセンス・オブ・サントリーウイスキー ブレンデッドジャパニーズウイスキー(リッチタイプ)

こちらは
〇 ホワイトオークで12年以上熟成後、「杉樽」にて6年以上熟成した山崎のモルト原酒
〇 シェリー樽やミズナラ樽で18年以上熟成した山崎のモルト原酒
〇 18年以上熟成の知多のグレーン原酒
を使用。

どちらのタイプもアルコール度数は48度。容量は500ml。料飲店限定で販売される。

そして今回のテーマとなっているのが「杉樽熟成原酒」。かつてサントリーウイスキー「膳」、「座」に使われたことで有名な原酒だ。

以前使用された経歴のある樽材が目玉となっており、「膳」や「座」を知る者にとって目新しさに少々欠けるものの、つい先日マルスウイスキーサクラカスクフィニッシュ(https://www.hombo.co.jp/item/whisky_brandy/marswhisky_sakura_cask_finish/)が発売され、他社でも栗の木などこれまでにない木材の樽が熟成に使用され始めているご時世に十分マッチしたリリースといえる。

さて、「膳」、「座」では賛否分かれた杉樽原酒。さて巷の評価や如何に。

〇 スムーズさはそのままリッチに、完成度の高まったジェムソン
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☆ JAMESON 18 YEARS OLD LIMITED RESERVE
 (Alc.40%、オフィシャル、ブレンデッドウイスキー)

(状態)
開封後半年程度/残量:80%程度/自宅保管

(テイスティング)
香り:
バニラ、メープルシロップの甘い香り、続いて熟成感の伴うウッディとビターチョコレートまたはカカオの芳香、徐々にドライフルーツ様な上品な酸味が現れる。少々ケミカルな香りも混じる印象。

味:
スムーズで全体的に控えめな印象。上品な甘さ、ウッディネス、タンニンが複合的に重なりながら現れては消える。中盤からメープルシロップ風味のパンケーキ、バターに似たオイリーなコク、キャラメルクリーム、僅かに青っぽい。ややしっかりした樽感。ボディは軽い。
余韻は長くも短くもなく、甘みとビターが程良く伸びる。

感想:
ジェムソンらしくライトでスムーズだが、香りは全体的にリッチで上品。味も相応に重層感が増し、バランスよく纏まっている印象。熟成感もほどほどで、オイリーやケミカル等アイリッシュらしさも散見される。ボディは軽く少々インパクトに欠けるが、飲みやすさと味わいの重層感のためか満足度は低くはない。

評価: 4 (とても美味しく感じる/ゆっくり楽しみたいレベル)

コスパ: 値段相応


前回のジェムソンと同じく、オフィシャルのセミナー参加を契機に久々にテイスティングした1本。

ノーマル(NAS)のジェムソンと比べると、ココアやドライフルーツといったシェリー樽由来と思わしき風味が加わって明らかににリッチなイメージになっています。ただし40度に加水されているためかボディは少々弱め。味の面では重層感はあるものの主張に欠け、捉えどころの無い雰囲気が感じられました。

とはいえ全体のバランスは良好で、棘の無い優等生なイメージ。ストレートでは勿論、オンザロックでもメープルやバニラクリームのような甘い香りが前面に現れてしっかり楽しめます。

価格も現行1万越えではありますが、この出来ならば納得できるレベル。個人的には飲んで損はしないかと思いますが、意外と入手困難。オフィシャルのハイクラスながら一般の酒販チェーンでも余程ウイスキーに特化した店舗でもない限り、見かけない印象です。

この入手の難しさの原因は日本での販路の狭さ故。
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(オフィシャルのセミナーでも紹介は無し…)

ジェムソン18年は日本のラインナップではおおっぴらに紹介されていない商品で、オフィシャルの入荷は1年に1度のみ。もともとアイリッシュウイスキーの市場が小さい日本へは割り当てが少なく、おまけにボトル自体がリミテッドリリースで出荷本数が少ないことも影響していると考えられます。

なので余程マニアックな品揃えを狙った店舗でない限り、店頭で見かけることは稀なわけです。またバーに於いても同様で、余程品揃えの良い店かアイリッシュに偏っていない限りはなかなか出会えません。

オフィシャルボトルながらちょっとしたレアキャラ。しかし物珍しさ以上に安定感のある味が魅力なボトルなので、機会に恵まれたなら試す価値アリだと思います。

〇 ライト&スムーズ、万人受けアイリッシュ
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☆ JAMESON(Alc.40%、オフィシャル、ブレンデッドウイスキー)

(状態)
開封後1年以上/残量:10%程度/自宅保管

(テイスティング)
香り:
杏仁豆腐やアーモンドパウダー、少々ドライフルーツ的な風味、キャンドルのようなややケミカルなオイリーさ、メープルシロップ、バナナケーキ、徐々にウッディさや砂糖菓子のような甘い風味が現れる。

味:
シンプルでライト。僅かにオイリーで全体的に角の無い印象。口に入れた瞬間はタンニン由来のビターや酸味が先行し、続いて中盤からは一気にバニラフレーバーやメープルシロップを思わせる甘さが現れる。少々青っぽさも感じられた。フィニッシュにかけて再びビター。ボディ感は皆無。余韻も短時間でスっと消え失せる印象。

感想:
所謂スイスイ飲める味・口当たりで、好き嫌いの出るフレーバーや刺激があまり感じられない万人受け仕様なイメージ。悪く言えば凡庸。ゆっくり味わうのではなく、食前や食中酒に適する印象。

評価: 3 (可も不可もなし/日飲みできるレベル)

コスパ: 値段相応

先日ペルノリカール主催のジェムソンのブランディングセミナーに参加。それ繋がりで久しぶりにと引っ張り出してきたボトルです。開封から数年経過しており、かつ既に残り少ない状態だったことも手伝ってかなりライトな印象でした。
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さて件のセミナーですが製法やブランドのテーマを中心に、ジェムソン(ノーマル)、ブラックバレル、カスクメイツの日本市場正規販売ブランド3種を紹介する内容でした。

なんというか、ノーエイジ品しか一般市場に出していない時点で驚き。12年と18年どこいったよと。日本の市場の貧しさを痛感させられました。まあ、スコッチやバーボンと比較すればアイリッシュのネームバリューの浸透具合はまだまだ途上ですし、なまじ1万を超える価格帯を投入したところで騒ぐのはコア層だけでしょうね…

具体的には質問しませんでしたが、紹介の無かったシリーズについては正規輸入が無いか、一般市場に流通させるほど本数が入らないかのどちらかと思われます。まあ「ジェムソン=廉価で誰でも美味しい」というイメージ戦略もあるんでしょうがね…18年は思い入れのあるボトルなだけに少々残念な思いです。

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試飲に関しては先述の3種。既に3種とも飲んだ経験のあるボトル(カスクメイツ以外の2種は所持歴あり)でしたが、どうも以前よりもライト感が増したイメージに変わっている印象。メーカーの方曰くグレーンウイスキーの比率が最近上がったということで、それが原因なのは間違いなさそうです。
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そして最後にはジェムソンを使った家庭向けカクテル「JGL」を実際に作って〆。

たしかに飲みやすい…ですが、元々ライト&スムーズなジェムソンをジンジャーエールで割っているためにウイスキー感は殆ど生きておらず。ちょっと居酒屋メニュー感が否めないかな、といった仕上がりでした。まあスイスイ飲める味わいなので知り合いとちょっと喋りながら楽しむ程度には良いかもしれません。
まあ、呑兵衛には少々物足りませんでしたけどねw

今回のセミナー、全体的にライトユーザー向けの構成でしたが思っていた以上に楽しめました。案外アイリッシュをテーマにしたブランディングセミナーってありませんからね。お声を掛けていただいたバーテンダーMさんに感謝です。

この3年間、ギュギュっと詰め込むように国内の蒸溜所を訪問してきた。回数にして20回以上、場所でいうと9カ所。主に古株で企業傘下の蒸溜所が多く、所謂有名どころばかりと言えばばかりなのだが、どの蒸溜所もその蒸溜所なりの良さ、楽しさ、学べるポイントがあった。
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自分の故郷に程近く、しょっちゅう通っているマルス信州ではウイスキーが生まれる様を手が届くほどの近さで体感し、現居住地のご近所さん山崎では大企業傘下蒸溜所の大きさ・立派さに圧倒され、遠く北の余市では異国情緒に心揺さぶられた。
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さらに長濱の日本一小さな蒸溜所、明石海峡を望む江井ヶ島の古参の酒造では、驚くほど明け透けに(今考えても極めて貴重な)情報を教えていただき、自分の引き出しを大いに増やすことができた。
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そして富士御殿場や宮城峡では同志、ウイスキーラバーの先輩方と交流の機会を得、楽しいひと時を過ごすことができた。

他にもたくさんの良い経験、トラブル、人生の勉強の機会に直面した(それこそ書ききれない程に)。

ウイスキーは日本において未だ嗜好品であり、それを愛する人間はコアな(そしてヲタクな)人種だと思う。だが、既に100年に及ぶ歴史を持ち、それこそ老いも若きも女も男も長きにわたって楽しんできた文化の一つとして、ウイスキーは確固たる地位を得た嗜好品でもある。それを生み出す蒸溜所には長い長い歴史のロマン、携わってきた先人達の足跡が脈々と刻まれている。

蒸溜所はそんな歴史や先人達の想いに触れることができ、訪れた先々で出会いやら発見やら多くの刺激が得られる、良い場だと思う。

ウイスキーファン、ないしラバーをかたる皆様、一度でいいので蒸溜所を訪れてみてください。行ったことがあるという方は今度は別の蒸溜所を訪ねてみてください。きっと良い経験が待っていると思います。


…酔いに任せてダラダラ書いたが、着地がよくわからなくなってきたので、このへんで〆にしたいと思う。

以上。(お酒は程々に…)
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北の大地には偉大なるジャパニーズウイスキーの父が建てた蒸溜所がある。ニッカウヰスキーの第1の拠点北海道工場、又の名を余市蒸溜所である。
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余市蒸溜所はまさしくニッカウヰスキーの創業の地。創業当初の建物をほぼ当時の姿のまま残しており、その多くが国の登録有形文化財に指定されている。
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その美しさは見ての通り。それは所謂現代的なマニュファクチャリングではなく、レトロモダン。一見して日本のウイスキー蒸溜所とは思えないほど美しく、時に異国情緒すら感じさせる風景だ。異国の雰囲気が感じられるのは言うまでもなく、この蒸溜所の設計者がかの竹鶴政孝御大であるからに他ならず、彼がウイスキーの本場スコットランドで見聞き学んだ事が随所に活きているからこそなのである。

故に、そんな風景を横に眺めながら敷地内を散策するだけでも価値があり、ここがニッカ創業の地と知らずとも、その異国情緒と建築物の美しさで十分楽しめる場所なのだ。

…と非ウイスキーファン向けのアピールはさておき、ウイスキーファンにとってもここは聖地。場内の見学では随所に見所が用意されている。
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その一つが言わずと知れた石炭直火炊きのポットスチル。今や(少なくとも有名蒸溜所では)世界でここだけ、ここでしか見ることのできない手法の、これまた実にレトロな光景なのである。

言わずもがな、現代の多くの蒸溜所はスチーム加熱で蒸溜を行うのが主流であり、例え直火炊きであっても殆どがガス(例外として静岡蒸溜所は薪)を燃料にしている。石炭直火はまだガスが燃料として一般に利用される前の、もっと昔にポットスチルの熱源に利用されていたものであり、近代化・工業化が進む中で既に廃れたものである。熱源としては極めて不安定で非効率、人力を必要とする作業を、今日もずっと続けているのだ。

それが例えビジターへのサービス的に残されている慣習だったとて、ファンの心をくすぐり、感銘を与えてくれることに他ならない。今後もきっと続けられるだろうし、続けてほしいと思う。

さて、これ以外にも見所は多々ある。今も外観と機能をそのまま残すキルン棟だったり、日本では珍しい平屋建てのダンネージ式ウェアハウスだったり、製造設備だけでもハイライトだらけなのである。
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そして忘れてはいけない旧竹鶴邸。
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見所盛だくさんだ。

勿論最後には製品試飲や直営のショップでの買い物が待っているし、資料を展示した博物館や有料試飲カウンターも備えられている。広大な敷地は先述のように文化財を見ながら散策するのにもうってつけだ。ウイスキーファンにもそうじゃない人にも、非常にオススメな観光地である。

日本で最古参の蒸溜所といえば言わずと知れたサントリー山崎蒸溜所であるが、実はそれより以前にウイスキー製造免許を取得している蒸溜所が、しかも案外近所に存在していた事実は意外と知られていない。
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江井ヶ嶋酒造。兵庫県明石市、瀬戸内海に面した場所に本社工場を持つ酒類メーカーであり、1888年に設立、1919年にウイスキーの製造免許を取得している。取得後すぐにはウイスキーの製造は行われず、実際に製造が開始されたのは1960年代頃、奈良県のシルバーウイスキーから製造設備を譲り受けてからとされる。
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1984年には新たに「ホワイトオーク蒸溜所」棟が建ち、以降はこちらでウイスキーを製造している。江井ヶ嶋酒造は元より日本酒の製造が主体であり、ウイスキーの製造は日本酒の仕込みが終わった夏頃に数か月程度行われるのみであったが、ウイスキーの需要が高まった現在は春頃から秋の中頃、日本酒の仕込み準備を始めるギリギリの時期までウイスキーの製造を行っている。
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また、一昨年までは使用するモルトのピートレベルは1種類(ライトピート)のみだったそうだが、昨年よりノンピートとヘビーピートを加えた3種類のバリエーションで製造が行われている。

古参ながらこれまで特段注目の的となることが少ない印象だった江井ヶ嶋だが、増産体制に入り、造られる原酒の幅が広がったことで可能性が大きく広がった。最近はイモシェリーカスクの商品を販売する等、実験的なリリースも見られ、ますます目が離せなくなっている。

蒸溜所見学の魅力とは~その1~」に引き続き、その魅力を紹介したいと思う。

③ ウイスキー製造を学べる

多くの蒸溜所では見学者用に、ウイスキー製造の各工程に関する説明や案内が書かれたパネルが設置されていることが多い。また、ツアーガイドが同伴する場合にはそれぞれの工程を具体的に説明してもらえるし、時間が許せば質問にも答えてもらえる。
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ウイスキーの製造プロセスに関しては、媒体を問わず現在多くの情報が流れている。単にそれを知りたいだけであるならばネットで検索するか書店に足を運べばいいし、近所のバーで聞いても良いと思う。しかし、実際の製造現場で、造られている様子を見ながら説明を聞けば、より理解や興味が深まると思う。

④ 作り手の話を聞ける

蒸溜所ではそこに努めるスタッフと会話することもできる。前項で述べたツアーガイドの他に、ショップや試飲スペース等の店員、場合によっては製造スタッフと会話することも可能だ。もっとも、大企業系の蒸溜所では製造スタッフが働くエリアには立ち入りが難しいため、製造スタッフと会話するには特別な見学会に参加するか余程運が良くなければならない。反面、規模の小さな蒸溜所ではそういった機会に恵まれるケースも稀ではない。
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作り手の考えや想いに触れることができれば、より一層ウイスキーへの関心が深まるだろう。また、場合によってはあまり知られていない裏話を聞けるかもしれない。


以上4点いかがだっただろうか。蒸溜所には他にもまだまだ楽しめるポイントがたくさんあり、到底語り尽くせない。是非実際に蒸溜所へ足を運び、自身で探し、楽しんで頂きたいと思う。

近畿圏のウィスキー蒸溜所といえば最も著名な山崎(大阪)、古参であるホワイトオーク(兵庫)が有名どころだが、滋賀県の最北部、長浜市にも大変ユニークな蒸溜所が存在している。それがここ、長濱蒸溜所だ。
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長濱蒸溜所は2016年の創業。元々ブルワリーとして稼働していた長濱浪漫ビールの建物内に設けられた新参のクラフトディスティラリー。そして国内屈指の小規模蒸留所である。

その小ささは蒸溜所自ら「国内最小」を謳う程で、企業傘下の大規模蒸溜所は比べるまでもなく、近年続々と創業している所謂クラフト蒸溜所の中に於いても明らかな規模の小ささだ。
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長濱浪漫ビールは工場直営飲食店、つまりクラフトブリュワリーにレストランが併設された複合施設である。そのビール醸造設備に隣接するようにしてウイスキー製造設備が設けられている。

所謂工房として使用されている棟は天井の高い2階建て構造(もしくは吹き抜けと一部ロフトのような構造)になっており、下階に糖化槽とポットスチル、上階に発酵槽が置かれている。また、表側からは目視できないが発酵槽と同じフロアにはモルト粉砕機も置かれている。
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製造設備はどれも非常にコンパクト。そしてコンパクトながらその独特の形状が印象的なポットスチルは、国内では唯一の導入となっているアランビック型(ポルトガル、ホヤ社)の1000リットルサイズのものである。

画像を見ていただいておわかりと思うが、スペース自体も非常にコンパクトに抑えられており、極めて省スペースである。決して広くはないスペースに醸造所と蒸溜所が同居し、レストランが併設され、さらに小さいながら直売ショップやバーカウンターも設けられているので、必然的に作業スペースが手狭になっており、場所によっては(特に糖化槽周辺などは)人と人がすれ違うことすら困難なこともある。
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勿論、コンピューターでのオペレーションも一部(発酵管理)を除いて行っておらず、手作業。さらに配管も最小限であり、各工程の材料の移動(糖化→発酵→蒸溜→樽詰め)は全てポンプを用いた手作業で行われる。当然各設備の清掃も手持ちのシャワーを使った手洗いで行う。

新古大小限らず国内の多くの蒸溜所である程度の工業化、オートメーション化が図られている中で(清掃は手洗いの場合も多いが)、これほど多くの工程を手作業に頼る蒸溜所は国内において他に無く、非常にレトロでトラディショナルな手法で製造していると言える。まさしく工業化される以前の作り方を実践している蒸溜所であり、それを間近で見学できる場所というのは非常に稀有であり貴重だ。
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まさにハンドクラフト、クラフトディスティラリーな長濱蒸溜所はそんな規模の小ささを武器に、ウイスキーに対する情熱と軽妙なフットワークで今日も様々なチャレンジを繰り返している。その成果が我々飲み手の元に届く日もそう遠くはないだろう。今後もますます目が離せない蒸溜所である。

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